内視鏡下手術について
胸部の手術は、従来は大きくメスで切り開いて、手術術野を大きく確保して手術を行っていました。すなわち外科医のストレスが少なく、安全を重視する手術スタイルをとっていました。しかし、最近ではできる限り術後の痛みが少なく、早期に退院できる、患者さんのQOL(生活の質、Quality of Life)を考慮した手術スタイルがとられるようになってきました。その手術の先鋒となっていますのが内鏡視下手術、呼吸器外科では胸腔鏡下手術です。胸腔鏡下手術は、従来の手術とその手術内容、すなわち腫瘍の切除などは同じですが、その腫瘍に到達するアプローチが異なるということです。胸腔鏡のカメラや手術器具の挿入のために1 cm程度の傷が胸部に3、4カ所できるだけで手術が終了します。しかし、この胸腔鏡下手術は、全ての呼吸器外科対象疾患に使用可能ではなく、現在では、良性疾患と一部の悪性疾患にしか適応されていません。また、良性疾患でも安全性の確保や腫瘍の大きさなどにより小さな切開では不十分で、小切開(4-5cm)を加える胸腔鏡補助下手術
(VATS, Video Assisted Thoracic Surgery)が多く採用されています。
胸腔鏡下手術は、良いところばかりではありません。外科医にとってストレスの多い手術です。その手術の習熟にはかなりの修練を要します。また、胸腔鏡下手術から通常の開胸手術へ移行する場合もあります。すなわち、外科医の卓越した機敏な術中判断が必要で、従来の標準手術にも手慣れていなければなりません。疾患によっては従来の開胸法が安全でより良い場合もあります。手術が安全に行われて初めて患者さんが恩恵に浴するのです。鏡視下手術のメリットとデメリットを十分に理解され、手術を受けられることをおすすめします。